「高級ラウンジ、ザ・ピアノ」

 ザ・ピアノとは、タイ人の小金持ちが集まる高級ラウンジである。つまり地元に根付いた高級酒呑み所である。


 場所はバンコク、スクムビット側からソイエカマイを500mほど入った右側にある。ここの周りにはタイ人向けの高級店や庶民的プアチビット・ドンチャン騒ぎわーいわーい!!などの、各種飲み屋が点在している。ただし気軽にはしごをするには店と店の間隔がけっこう開いているし、人気(ひとけ)の無い所が多い。


 エカマイは、歩いてぶらぶらはしごするのが好きな私にとって、とっつき難いソイである。んなもんで、この辺りの飲み歩きはあんまりしたことがなかった。

 今回、高級ラウンジはまかせておけっていう友人がタイに住み始めたので行ってきました。

 まずはタクシーで乗り付ける。高級店なので、歩いては行かないのである。ボーイがうやうやしくタクシーのドアを開けてくれる。ワイ(タイ式合掌挨拶)をするボーイに鷹揚(おうよう)にうなずき、チップを20バーツ(だけだけど)渡す。金持ち気分である。

 ふと周りを見渡すとベンツ等の高級車がずらり…駐車してある。ううっ、さすが高級店。鷹揚な気分から、ちょっと卑屈な気分になってくる。

 ベンツが1台玄関に横付けされた。ボーイがさっと車のドアを開ける。降りてきたタイ人紳士にワイをする。なんだか我々にしたワイより丁寧な気がする。受け付けの黒服も出てきてワイをしている。我々の時はなにやらチェックしているノートから顔もあげなかってくせに…。タイ紳士はなにげなくチップを渡している。きっと100バーツは下らないに違いない。いやいや高級店だから500バーツかも。かなり卑屈な気分になる。

 友人達はさっさと店の中に入ってしまった。私は少しうなだれ気味に後を追う。

 ドアを開けたら、ジャズの生演奏が私を迎えてくれた。
 店の中は広く、中央部後方にステージがある。中央にはどーんとグランドピアノが置いてあり、ファランが二人、ピアノとサックスで上品にジャズを演奏している。そのピアノとステージを取り囲むように、座り心地の良さそうなソファーがゆったりと配置され、余計な飾り物はあまり無い。照明は酒を呑むのにほど良い夕暮れ時の明るさに整えられ、落ち着きを醸し出している。

 まだ九時台だったのでソファーは空席が多かった。
 さて、どこに座りましょうかね…、と周りを見渡しているとボーイが席まで案内してくれた。でも、その席はスピーカーのすぐ側である、きっとショーが始まったらうるさくってしょうがないだろう。それでもって、ステージの真横なんでショーが半分しか見えない。


 卑屈な気分にひたっていた私は、言葉も荒く、てめえふざけんじゃねー、金持ちじゃないからってバカにするな!席を変えてくれーっ!!って泣きながら(うそうそ)頼んだのだが、ボーイは慇懃無礼に「他の席は全て予約済みでございます」と取り合ってくれない。

 ホンマカイナ、ウソを言うんじゃないー!なんてことを言っている時にママさんが来て、ボーイに予約を確認してくるように命令してくれる。


 ウソかホントか、やはり席は予約で埋まっているそうである。さすが高級店。
 ま、そういう事ならと気を取りなおして酒を注文する。で、値段を聞いてびっくり。シーバス、ジョニ黒が1本4千バーツ。普通の日本人用カラオケ屋の2倍である。カフェーだったら4本注文できる。も〜う、高級店。ちなみにビールだったら小瓶1本6百バーツ。また、ここの会員は3万バーツでウイスキー10本とレディスドリンク40杯、テーブルチャージ無料と20%のディスカウントが付くそうである。1年間有効だそうだ。(でも、え〜〜ったった1年間?飲みきれまへんがな。って言ったら2年間有効になった)


 ふーん、そう。以外と安いねとか言いながら(内心、もったいない〜〜って泣きが入っている)シーバスを入れる。


 店の出口側にはカウンター席があり、女の娘がドバッと居る。
 女の娘達はカウンター席に座ってボーッとしていたり、カウンターの周りのテーブル席でおしゃべりに夢中になっていたりする。座る場所がなく立っている娘も多い。その一角だけ、まるで「綺麗で若い女性専用カウンターバー」満員御礼状態である。

 指名の娘がいない客は、そこに行って歩き回ったり、軽く談笑しながら女の娘を選ぶ。

 で、我々もさっさく「綺麗で若い女性専用カウンターバー」に行きました。ママさんに付き添われて・・・。

 おおっ!すごい女の娘の数である。我々は女の娘を掻き分け掻き分け突き進む。ぶじ1周したところで、とりあえず一息いれる。と…ここで私は重大な失敗をしたのに気がつき、思わず苦笑してしまった。進むのに一生懸命で女の娘達の顔をぜんぜん覚えていなかったのだ。

 ということでもう1週。さすが高級店、普通の日本人用カラオケ屋とはぜんぜんレベルが違う。普通の日本人用カラオケ屋で、とっても綺麗クラスがここでは最低レベル。もっと上のクラスがごろごろいる。友人の1人などは1週してみんな綺麗だから、もう誰でも良い。ママさん性格の良い娘を紹介して。と言って席に帰ってしまった。


 女の娘は私が側を通っても媚を売ることなどぜんぜんしない。たまたま目が合っても恥ずかしげにはにかむだけで、下を向いてしまう。
 はじめは私を気に入らないのかと意気消沈したのだが、どうやらそうではないらしい。他の客が来ても同じだった。初心(うぶ)な娘が多いか、そういう教育をしているんだろう。

 ここは「綺麗で若い女性専用カウンターバー」のはずなのに、1人客がちらほらと座っていて、いっぱいいる女の娘と気楽に会話している。
 あたしらは、この店の常連なんだからこういう呑み方ができるんだよね。んでもって、ここにしょっちゅう来る金なんていつだって持っているんだし。俺達金持ち、うんうん。お前らとは違うぞ、うんうん。
 っていういかにも場慣れした態度を見ているとなんだかくやしー。

 なるほど、こういう呑み方もあるんだなー、今度やってみようと、その客達をしばし観察する。

 さて、今宵ひととき酒の相手をしてくれる、私好みのとびっきり美女をエスコート。ニカニカしながら席に戻る。友人達もそれぞれ、好みのドキドキ美女を連れていた。


 そのときボーイが来て、今よりちょっと良い席にチェンジ出来ます、と言ってきた。
 おいおい席がいっぱいなんじゃなかったの??。まあいいか、もしかしたらキャンセルがあったのかもしれないか・・・ラッキーラッキーと席を移動する。

 用意はすべて整った。さあ宴会だ、これからみんなで思う存分酒を呑もう。・・・とは、ならないのがこういう店の特徴である。
 たいがい、(接待かタイ語が出来ない人がいるグループ以外)それぞれインスタントカップルごとの世界に入ってしまう。水割り等もやたら薄くて、いつもロックでウイスキーをやっている私には、酒を呑んでいる気がしない。
 でも、それでいいのである。バカ高い店の酒をがばがば呑むのはもったいない。


 それに、もともと旨い酒には旨いつまみがなくっちゃ、とってもいや!!。という性分の私は、こうゆう所やゴーゴーバーや日本式カラオケ屋なんかは、本格的に酒を呑む店というより酒を潤滑油に友人や店の娘達と楽しむ店、と位置付けしてあるのだ。(ちなみに、店でもけっこう旨そうな料理を出す。でも高そうなんで注文しなかった)

 私の美女はスマートで、見事なプロポーションを服の上からでも見て取れるのだが、なぜかダイエット中だと言う。目の前のフルーツもいっさい食べようとしない。
 私は食べるのが好きだが、人が食べているのを見るのも好きである。(特に美女のを・・・)
 ちょっといたずら心を出して、自分がフルーツを食べるたびに、それがいかに旨いかなるべく詳しく説明はじめた。

 美女は「う〜ん、いじわる〜」なんて言いながら、はじめは我慢していたが、そのうち我慢しきれなくなってフルーツの小片を口に入れた。目をつぶり、ゆっくり噛みしめて「うーん、美味しい」と一言。それからはフルーツをフォークで細かくしつつ、しきりに食べ始めた。


 私の勝ちである。ついでに悪乗りして、自分のお気に入り料理屋の、どの料理がどうゆう風に旨いか。また、日本のフルーツがどれだけ旨いか、食べるしぐさや擬音をまじえつつ熱弁してしまった。
 美女は「食べたーい」とか「もう、たまらないー」「やめて〜」などサービスまじりの合の手をいれていたが、途中から黙ってしまって、すねたような悩ましい視線で私を見上げているだけになってしまった。


 あらら、やりすぎちゃったかな??。話すのを止めて、どしたの?って聞いたら、
「決心したの。今日仕事が終わったら美味しいものいっぱい食べるって。いっぱいいっぱいよ!。も〜う、意地悪な人ね、せっかくダイエットしていたのに〜。そのかわり、私がおでぶになってもちゃんと指名してよね。そんでもって、日本に行ったらフルーツをお土産にいっぱい買ってきてね」
 と美女は、悩ましくも美しい瞳をそらさず一気に言った。


 ハイハイ分かりました。お腹を壊さないように、ほどほどに食べてね。(しかし、こんなのが高級店にふさわしい会話だろうか?)


 話が一段落したところで友人達を見たら、それぞれ美女との会話を楽しんでいる。
 私も美女の礼儀正しさや細かい心遣いに、さっきまでの卑屈な気分など忘れて、楽しい楽しい、も一つ楽しい気分になっていた。さすが高級店。

 いきなり、けっこうなボリュームで演奏が始まった。ショータイムに入ったのだ。
 10人ぐらいのバンドで、主に洋物ポピュラーを演奏している。いかに高級といってもやっぱりタイ、とーってもうるさい。美女との会話も、おたがい耳に口を近づけないと聞こえない。(けっこうそれも良いんだが・・・)

 ふと周りを見渡すと、満席になっている。さすがである。ということは予約なしでは。ゴールデンタイムに入店できないということだろう。(美女曰く、今日はこれでもすいているそうだ)
 さっき予約でいっぱいと言ってたのは本当だったんだね、ボーイさん。疑ってごめんね。

 客層はタイ人金持ち風5割、タイ人中流風2割、タイ人場違い風1割、ファラン1割、日本人を含むモンゴロイド系外人1割、といった感じだろうか。
 ただし、奥にあるカラオケ付きVIPルームは確認できないんで、あくまでもラウンジやカウンターに居っている客だけである。


 1人客も多く、さきほどの「綺麗で若い女性専用カウンターバー」も「なんだか知らないけど、綺麗で若い女性が多いな!カウンターバー」くらいになっている。カウンターに座っている美女達にも、ほとんど客がついているようだ。
 ということは、お気に入りの美女も予約しておかないと先客がついている可能性が高いということでもあろう。
 なんにせよ、早い時間に行かないかぎり、要予約の高級店なんですね。ここは。


 あと、タイ語が出来ない人や、短期旅行者が来ても、まず、たいして楽しめないと思う。
 日本語はもちろん、英語もあんまり通じない。(美女達も水商売経験のあまりない、初々しい娘が多いようだ。もちろん例外もある)
 んで、ママさんや美女の話から想像すると、ここは常連さんを求めているようで、一見さんの客にはけっこう冷たそう。(まあ、そうはいっても客商売なんだから、そこそこ楽しめるだろうが・・・)

 高級店なんで、客もさぞ上品に酒を飲んでいるだろうと思っていた。が、さすがタイ人。なかには酔っぱらって、美女を後ろからだきしめて胸を触っていたりする奴もいる。って、よく見たら日本人っぽく見えるなー、奴は。
 まあ、なんにせよ高級店といえども、日本のクラブとかよりは、よっぽどぶっちゃけた雰囲気で、酒を呑みやすい。
 でも、まあ、ここは、とびっきりの美女と会話を楽しむ店ですね。(ショータイム以外)


 さてさて、会計である。ボトルを入れて、3時間3人で1万バーツ。
 高い?安い?・・・私の印象は、まあまあいいんでないかい。っていう値段でした。

 で、会計もすんで美女達に送り出してもらいます。玄関を出たところでご挨拶。美女達はそれぞれ、優雅で悩ましいくも美しいワイを披露してくれました。


 チップをどうしようか。きっと、下心持ち金持ちタイ人なら平気で4〜5千バーツ渡すんだろうな。と思いつつ、奴らに対抗なんかとっても出来ないんで・・・。
 まあ、サービス料もついているし、ってことで・・・再び卑屈な気分で百バーツをそっと美女の手に握らせた。


 怒っちゃうかな?(じっさい、しつけの悪い店の変な娘にあたると「てやんでー、百バーツなんてはした金。」って態度にでる)どんな反応がでるか・・・恐れつつ、美女の顔色をうかがった。


 美女は再びワイをすると、小声で言ってくれた。
「私、3百バーツの服を買おうかどうか迷っていたの。よかった。このお金をたして明日買いに行って来ます。ありがとう」
 だって、もーう、3百バーツあげちゃう、あげちゃう。(あげなかったけど・・・)最後までしつけの良い高級店でした。


 また行っちゃうんだからね。 byクロンタンのムコン

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